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きみを疑ったことを、心から反省している。
確定申告の計算、原稿の締め切り、数Ⅰの三角関数に巡回相談先からの面倒なリクエストにと、いろんなことが立て込んで頭が破裂寸前の私。だけど、職業柄、常に子どもたちの言動にアンテナを張っているつもりだ。たとえば、階段を上がってくる足音やドアを開けて入ってきたときの表情、話している声のトーン・・・・ちょっとしたサインをキャッチして「今日は調子が悪そうだから、新しい課題はやめとこうかな」とか「あれ? 何かあったのかな? 」と様子を伺ってみたりするのを、私たちは知らず知らずのうちにやっている。
さて、今日はそのアンテナの不具合のお話。
Mくんが30分以上遅刻してきた。・・・・にもかかわらず、謝るでも悪びれたそぶりを見せるでもなく、担当スタッフに遅れた理由を問われて「だって眠かったんだもん!」とふてくされている。横目でそんなやり取りを見ながら、そういえば先週もかなり遅れてきたよなぁと思い出し、
な~んか、ゆるんでるなぁ。
などと思ったあたりから、アンテナは狂い始めていたのかもしれない。
「今日は、ジュースとお菓子を買う」というMくん。
算数の勉強もかねて、「買い物」が毎週のプログラムの一つになっているMくん。以前は自分の食べたいお菓子やジュースを買っていたが、確か最近は「お母さんに頼まれたもの」を買うことになっていたはず。
遅刻をたしなめられた直後にこの流れ・・・・なんかアヤシイ?
「本当に、お菓子とジュースを頼まれたの? 自分が買いたいものじゃなくて?」
スタッフが何度か確認すると、「うん」と言ってる。
つい私も横から口を挟む。「あとで先生、お母さんに『今日はお菓子とジュースを買いました』って伝えるよ。大丈夫ね?」
「え? ・・・・うん・・・」
「ちょっと~、急に声ちっちゃくなってるじゃん。だいじょうぶ~?」
それからしばらく、Mくんとスタッフのやり取りが続く。
「もしかして、何を買うんだったか忘れちゃったのかな?」
スタッフが鎌をかけると、「・・・んー、うん・・・」と、うなずいてしまうMくん。
「だったら、勝手にジュース買ってったらお母さん驚くから、家に帰ってから『忘れちゃってごめん』って言ったほうがいいと思うけど?」
そんな流れになってる。Mくんは、そのうち、足を踏み鳴らしながら「いいんだよ、ジュースで!」「じゃぁ、お菓子はやめるよ。ジュースだけでいいよ」などと、言うことがブレ始める。
「う~~~ん」 担当スタッフも、どうすべきか迷ったようだ。判断は彼女に任せることにして見守りつつ、そういえば去年似たようなことがあったなぁと、頭をよぎった。Mくんから「今日は行けない」と電話がかかってきた。理由を聞くと「お財布がない」。
お財布がないって、どういうこと? なくしちゃったの? 探してみた? ・・・・電話をとった私が問いただすと、しどろもどろになるMくん。「「いま何してるの?」「テレビ見てた」 雪のちらつく寒い日だった。誰だって、出かけるのが億劫になりそうだ。「もしかして、来るの面倒になっちゃった?」「え?・・・・うん・・・・」とMくんは誘導に引っかかった。「そっかー。今日はサボりたくなっちゃったのね?」「ちがうよ!」「じゃぁ、先生待ってるから、がんばって来たら?」 私はそう励まして、電話を切った。
実は、後でわかったのだが、「お財布がない」は本当だった。Mくんのお母さんが仕事に出かけるとき、うっかり電車賃を渡すのを忘れてしまったのだ。私に「がんばって来い」と言われたMくんは、なんと交番に行って事情を話し、小銭を借りて電車に乗ってやってきた。
あれから約1年。
スタッフは、Mくんの言葉を信じることにして、二人はジュースを買ってきた。
そして、あとでお母さんに確認したところ、今日はお母さんの帰りが遅くなるため、お腹をすかせると思っておやつにジュースとお菓子を買うよう伝えたとのこと。
私は、2度も同じ失敗を繰り返したのだ。
これは本当に、猛省すべきこと。
Mくんはもともと、言語に弱さを抱えている。よくしゃべるようでいて実は、言いたいことを適切に伝えるボキャブラリーや表現が稚拙だし、言われていることの意味がわからないときも多々あるのだろう。だから、誘導的な質問に引っかかって「うん」と言ってしまったり、自信がなくなるのか言い分が二転三転してしまったりする。
こういう子たちは、さまざまなトラブルに巻き込まれやすい。いじめや虐待、犯罪などの被害者になってもその事実を伝えられず丸め込まれたり、意図せず加害者になってしまったり、人の罪を擦り付けられてしまったり、といったリスクが高い。
そのことを十分知っているはずの自分が、この始末だ。
もちろん、私たちには、子どものうそを見抜く力も必要だ。
でもそれ以前に、それ以上に、子どもを信じて根気良く事実を確かめることを、怠ってはいけない。
子どもは、信じてもらえないと感じ取ると、伝えることをあきらめてしまうから。
子どもは、自分を信じてくれない人を、信じることはできないから。
Mくん。疑ってかかって本当に本当にごめんなさい。
そして、
伝える言葉が見つからなくても、地団太踏んで「僕は間違っていない」と主張したきみの強さを、
お巡りさんにお金を借りて、息を切らして駆けつけて、サボったんじゃないと証明したきみの勇気を、
これからも大切にしてほしい。
大事なことを教えてくれて、ありがとう。
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